北方領土ネタは近頃、あんまり耳にしないね、そういや。
- 作者: 本田良一
- 出版社/メーカー: 凱風社
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 単行本
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「密漁の海で」という本を読んでいて、いわゆる『北方領土』周辺水域でのアンダーグラウンドな歴史、というと格好良いんだけど、要するに事実上の国境線と主権者たちの建前に挟まれたマージナルな空間の歴史を密漁――現地の闇経済を軸に整理して、戦後日本にとっての「北方領土」がどういう意味を担い、また現実にはそこで何があったのか、その背後ではどういった政治的敵対や確執があったのか、といったことをまとめた本。まだ読み始めたばっかだけれども、引揚出来なかった樺太住民をスパイにして潜入した事件から始まって、周辺海域での密漁がソ連国境警備隊との癒着を産んで、その過程でレポ船が生まれて、まあ紆余曲折の中で時に政策変更から強硬的態度にでた警備隊に拿捕されたり、公安当局との二重スパイやってたら仲間に密告されたり、暴力団関係者が組織して特攻船*1部隊ができたり、地元経済の収益の相当程度までが密漁に依存していたりとか、最近ではロシア側も密漁始めて堂々と地元をウェットスーツ姿で歩き回ってるらしいとか、いろいろ愉快な話が盛りだくさんなので興味のある人は読んでみるといいんじゃないかな。日ソ(ロ)の「北方領土」をめぐる政治的確執や内紛などを含めた歴史的経緯についても書いてあるし、例のムネオちゃん問題もかなり紙幅を割いて触れられているので、その評価は先ず置いたとしても読み物としては大変お買い得感はある。
で、そんなことは割にどうでもいいんだけど、今しがた読んでる途中で文中に「山口健二」って名前が出てきたのでおやっと思ったのだけれども、あの山口健二さんなんだろうか。ベ平連の地下組織ジャテックの活動家として登場しているから、たぶん本人だと思うんだけど、確証はない。と、いって、僕自身は山口健二について一冊本を読んだことがあるくらいで、特にその活動歴を事前に知っていたわけではないし、その人物についてもあまり知らないんだけどね。会ったことのある人に言わせると「リアル007というか。非合法・秘密作戦路線まっしぐら」という感じの人で、風格というか独特の存在感があったらしい。
- 作者: 山口健二
- 出版社/メーカー: 北冬書房
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
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で、この本の後ろの、著者略歴を読むと非常に変わったというか、ちょっとした冒険小説みたいな人生を送ってきたことが分かる。戦前生まれで、44年旅順高校に入学後、関東軍指揮下を朝鮮人の友人とともに脱走して、満州・朝鮮半島を南下、日本海側を転々として、45年終戦と同時に第一次日本アナキスト連盟に参加。53年にはアナ連を離れ、社会党・共産党に二重加盟し、中核自衛隊に参加。六全協での党の方向転換によって、共産党を除名。同じころ、社会党も除名。三池闘争支援を経て、谷川雁らの「大正行動隊」に参加し、東京で「後方の会」を設立。65年には一種の秘密結社である「無政府共産党」(戦前の同名組織とは無関係みたい)を結成、66年「ベトナム反戦直接行動委員会」に関与、翌年にはレボルト社を設立し「世界革命運動情報」を発行。68年になるとML派に加盟し政治局員となる。べ平連の非公然組織「ジャテック」に協力。69年の東大安田講堂攻防戦での敗退後、中国に渡り文革左派に加担、林彪事件に連座して投獄――まあ、なんというか明治終わりから昭和初期の主義者つーか、運動家の人みたいな感じですね。
釈放されて日本に戻ってきてからは、沖縄で地域社という組織を設立して分権独立運動をやってたらしい。で、そのあと、アナ連を再建して「自由意志」を復刊させる。この新聞が今みたいな体たらくになる前に関わるのを止めたみたいだけど、一体なんでこういう人が出してた新聞があんな電波極右みたいな記事載せるような代物になったのかはホントに奇妙。
「アナルコ・コミュニズムの歴史的研究」は遺稿集ということで、内容も時期もバラバラなんだけど、ただ、一貫してアナキズムの現実的な可能性、あるいはアナキズム的なものの現勢化といった問題意識があるように思える(逆に、行動の人らしく関わる運動それ自体にイデオロギー的純粋さは求めてないようにも思える。本人の言葉を借りればマルクス主義とアナキズムの間を彷徨っていたということになるのだろう。)。50年代、60年代の記事もあるけど、意外と80年代後半から90年代後半にかけての晩年の記事もたくさん載っているし、テーマなんかでも色々と変わってはきているんだけど、革命への直接的志向性と行動性を重視するという傾向は最後まで持っていたみたいだ。「可能性としてのアナキズム」という記事で、アナキズムの四つの型(革命・改良・反逆・観想)を挙げ革命は今や現実的に不可能であるし、アナキズム的革命すなわち社会革命による総体的全面的転覆(解放)など無理だから、若い人たちは改良の道を選び、その中で様々な方向からアナキズム的なもの(自治自立とか、自由の漸進的獲得とか?)をどうすれば具体的に日本の中で発現させていくかを考えるべきだと言っていて、最後にただ自分は年寄りだし改良というのは非常に長い時間をかけてようやく成果が出るものだから、自分としては反逆の道を選ばせてもらう、と色んな意味で凄いことを書いていて、僕なんかは革命は無理でも暴動でいいよ、というかむしろ暴動を連発させる世の中にしようじゃないかとか適当なことを思っているわけですが、筋金入りの本物に出会ってびっくり。てか、生きてる頃に実物に会ってみたかったなあ。